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男性
誕生日:
1985/01/15
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 先日、半年間行なっていた運送会社でのバイトの契約期間が満了した。最後の日、休憩中のベンチで僕とずっと同じ班だった40代の男の人が笑顔で、僕の目をまっすぐ見て話しかけてきた。
「来月休みなんだって?」「ああ、はい。っていうか、もう来ないかもしれません」「ああそっか。来年の春卒業だっけ?」「ええそうです」「そっかー」「…………」「卒業旅行とか、今も行くもんなの?」「あ、そうですね、人によっては、行きますね」「そっか、人によってねー」
 そこまで話して、彼はベンチを立ち上がって近くの同僚と話し始めた。僕と彼のたった30秒にも満たないこの会話は、今までの半年間で彼と話した会話の中で、もっとも長いものになった。

 僕は、彼にはっきりと嫌われていた。最初は単に仕事ができないせいだと思っていた。社員である彼の仕事をサポートするのが、僕の主な仕事。けれどそんなことすら上手くできずに、僕は何度も叱責を受けた。だからそれは仕方ないことだと思っていた。実際、僕は仕事ができなかった。でも、そのうち、叱責の中に、あきらかに不要なひと言が付け加えられていることに気づいた。

「ゴロゴロゴロゴロ転がしてないで、こっちを手伝え」「いつもヒマってわけじゃないんだからさー、ここやりなよ」「いちいち向き変えなくていいから!」「おい!それ触ってないでさっさと流せ!」「そういう積み木より先にやることがあるだろう!」

 暗号みたいだ。彼が本当に言いたかったことは、それぞれこうなる。

「それを移動させるのは後回しにして、まずこっちをやれ」「俺が忙しいときはここはきみに任せる」「向きは縦じゃなくて横にしてくれ」「その荷物はVIPで別扱いだからほっとけ」「小さな荷物を積むより大きな荷物を先に片付けろ」

 彼の表現の選び方から、僕は彼に個人的に嫌われているという証を受け取った。もっとも、その理由には心当たりがあった。



 
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 この話を後輩から聞いたとき、まるで2ちゃんのできそこないのスレッドみたいだな、と僕は思った。こんなやつ、本当にいるんだな、と思った。
 けれど、今の僕は疑いを深くしている。ウソ話は、文章化するとよくわかる。流れ的に、ところどころ辻褄のあわないところが出てきて、そういう綻びを直そうとすると、はっきりと指摘はできないけれど不自然で気持ちの悪い感覚が文章に残る。正直、書いてて苦痛だった。

 本当に嘘なのかもしれない。彼は話がうまいから、ネットのどっかから拾ってきた話を捻って、いかにも自分の友だちのことのように話して聞かせただけなのかもしれない。真相はわからない。けど少なくとも、この話は嘘だ、「笹本くん」なんて本当は存在しないんだと考えたほうが、世界がもっと素敵なものに見えるのは確かだ。


 彼は「笹本くん」の話を終えたあと、「笹本はだめなやつなんですよ」と言った。
 僕はそれにとっさに答えることができなかった。
 明らかに「笹本」はだめなやつだった。でも、程度の差こそあれ同じく「だめなやつ」である僕には、そう直接言うのはためらわれた。それで結局、「まあ、俺も人のことは言えないけどさ」なんて答えた。
 バイト先で知り合った学校の後輩は、僕の言葉を聞いてちょっと笑ってから、「でも」と言った。
「でも、田代さんはちゃんと大学にいるじゃないですか」
 笹本くんは高校卒業後、専門学校に入りはしたものの、1年と経たずに中退。「これは本当に俺のやりたいものじゃなかった」と親を説得し、別の専門学校へ入学。けれどこれもすぐに中退してしまう。

 笹本くんは解体屋に就職した。2ヶ月、3ヶ月と経つにつれ、「最近、仕事が楽しい」と元気を見せていた。けれど、4ヶ月目から給料の支払いが滞りがちになり、笹本くんが就職してから6ヶ月目、会社はいつの間にか倒産し、経営者は行方不明の状態になってしまった。


 それからずっと、笹本くんはアルバイトで一応は働いているのだという。
 高校時代の仲間と一緒に彼の家へ借金を取り立てに行くと、「勘弁してくれよ、今月の給料、俺2万円しかもらってないんだ」と言って頑としてお金を返そうとしない。彼と遊びに行くと、バイパスを走る車の中で唐突に「俺、じつはロリコンなんだ」と告白を始めることもあるらしい。
 高2になった笹本くんは、××高に行っている親友と一緒にコンビニでバイトを始めることにした。
 職場での笹本くんはあまり仕事がうまく出来なかったけれど、持ち前のガッツと太った外見のせいか愛嬌のあるキャラだと捉えられていて、周囲の目はそれほど冷たくはなかったのだという。

 ある日、親友と同じシフトに入って仕事をしていると、ひとりの女の子が来店した。その子は中学生ぐらいに見えた。彼女は店内をしばらくウロウロしたあと、商品の補充をしていた親友に話しかけた。
「あの、○○中の~~さんですよね。お姉ちゃんがメールしたいって言ってました」
 その女の子は、笹本くんが好きな子の妹だったのだという。


 その後ほどなくして、親友と彼女はつきあい始めた。笹本くんはその報告を待たずにバイトをやめ、親友とも疎遠になっていた。
 以前やってたバイト先で知り合った後輩から聞いた話。

 笹本(仮名)という男がいる。昔から、「ぽっちゃり」という言葉ではフォローできないほど太っている。
 中学のとき、好きな人が出来た。「おんなじ高校行こうね」中学3年の春、彼女とそんな会話を交わした。彼女が行きたいと言っていた高校は、笹本くんの偏差値からしてみればけっこうがんばらなければ入れそうにない高校だった。
 笹本くんはがんばった。当然だった。好きな女の子との約束を守るためだったのだから。
 彼のがんばりは徐々に実を結びはじめ、秋も暮れるころになると、担任の先生から「この成績なら○○高も問題ない」と太鼓判を押されるようにまでなっていた。
 
 冬、煙突のついた石油ストーブの周りに仲間たちと集まってだべっていると、彼女がやってきた。
「みんな、高校どこ行くの?」
 俺△△高、俺は××高、あ俺はこいつと同じとこ。次々に行きたい高校の名を挙げていく仲間たち。そこで、突然彼女が
「あ、あたしと同じだね。あたしも××高!」
 そこは笹本くんが狙っていた○○高より偏差値的に2つくらいレベルの下がる高校だった。
 笹本くんは「えっ!?」と思ったらしい。けれど、「えっ!?」と思っただけで口には出さなかったのだという。

 結局、笹本くんは○○高校に入り、彼女は××高校に入った。
 それでも、笹本くんは友だちを通じて彼女の近況を入手し続けていた。周りのかわいい女の子のことを好きになりかけたこともあったけれど、やっぱり最後には中学時代の彼女へと意識は戻っていくのだった。距離を置けば置くほど、彼女への思いは募っていくばかりのように思われた。
 そうして彼は高校2年生になった。
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