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男性
誕生日:
1985/01/15
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 初日、僕が配属された班は、いちばん過酷だと言われるほど忙しいところだった。流されてくる荷物を集配所ごとに仕分けしてまた発送するだけの仕事なのだけど、その荷物の量が半端じゃなかった。少しでも動きを止めると、冗談じゃなく全体のラインが停止するほどの忙しさだった。汗が大量に流れて床にいくつもの染みが広がった。やってもやっても荷物の量は少しも変わらず、そして荷物を入れるボックスの数ばかりが減っていく。そのボックスを適宜補充するように僕は命じられた。「大事だ」と言う彼の言葉は、僕にも理解できた。ボックスの補充を怠ったら荷物を処理できなくなって、ラインが止まってしまうからだ。
 だからこそ僕は荷物を処理しながら、ボックスの数が減ってくると50mくらい離れたところにある「空ボックス置き場」からボックスを引っ張ってきて補充することを繰り返した。
 でも、何度目かに僕がボックスを引っ張っていったとき、それを見た彼が「もういらねえ!」と言った。それは、冷静に考えれば「荷物の量が減ってきてもうボックスも必要なくなるから持ってこなくてもいい」ということだったのだけれど、忙しさにテンションがハイになっていた僕は、つい彼に「あぁ!?」とけんか腰の返事を返してしまった。


 思ったよりだいぶ長くなった。でも、そういうわけで彼が僕を嫌うのは、僕に原因があった。そのうえ仕事をなかなか覚えない、とあっては、嫌われるのは当然だと言えた。生意気で、かつ仕事もできない、というわけだ。


 仕事中、彼のご機嫌を窺ってびくびくすることが多かった。狭い職場で彼とすれ違うとき、避ける体が無意識に大仰になった。彼が休みの日は心が落ち着いた。仕事中、また明日彼と仕事をするのだと思い出しては暗くなった。
 一時期、どれだけやめてしまおうかと思っていた。毎日仕事に出るのが苦痛でたまらかった。他のバイトに乗り換えた場合、どのくらいの給料差が発生するのか冷静に計算した。

 けれども結局、僕はやめなかった。給料自体はともかく、勤務時間がうってつけで、他に代わりになれるバイトが無かったというのもあるけれど、それよりも、ここで逃げたらこの先また逃げ続けるような気がしたからだ。逃げ癖自体は今だに健在だけれど、少なくとも一度自分から始めたことから逃げるのはどうかと思った。ただの意地だった、と言い換えてもいい。
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 先日、半年間行なっていた運送会社でのバイトの契約期間が満了した。最後の日、休憩中のベンチで僕とずっと同じ班だった40代の男の人が笑顔で、僕の目をまっすぐ見て話しかけてきた。
「来月休みなんだって?」「ああ、はい。っていうか、もう来ないかもしれません」「ああそっか。来年の春卒業だっけ?」「ええそうです」「そっかー」「…………」「卒業旅行とか、今も行くもんなの?」「あ、そうですね、人によっては、行きますね」「そっか、人によってねー」
 そこまで話して、彼はベンチを立ち上がって近くの同僚と話し始めた。僕と彼のたった30秒にも満たないこの会話は、今までの半年間で彼と話した会話の中で、もっとも長いものになった。

 僕は、彼にはっきりと嫌われていた。最初は単に仕事ができないせいだと思っていた。社員である彼の仕事をサポートするのが、僕の主な仕事。けれどそんなことすら上手くできずに、僕は何度も叱責を受けた。だからそれは仕方ないことだと思っていた。実際、僕は仕事ができなかった。でも、そのうち、叱責の中に、あきらかに不要なひと言が付け加えられていることに気づいた。

「ゴロゴロゴロゴロ転がしてないで、こっちを手伝え」「いつもヒマってわけじゃないんだからさー、ここやりなよ」「いちいち向き変えなくていいから!」「おい!それ触ってないでさっさと流せ!」「そういう積み木より先にやることがあるだろう!」

 暗号みたいだ。彼が本当に言いたかったことは、それぞれこうなる。

「それを移動させるのは後回しにして、まずこっちをやれ」「俺が忙しいときはここはきみに任せる」「向きは縦じゃなくて横にしてくれ」「その荷物はVIPで別扱いだからほっとけ」「小さな荷物を積むより大きな荷物を先に片付けろ」

 彼の表現の選び方から、僕は彼に個人的に嫌われているという証を受け取った。もっとも、その理由には心当たりがあった。



 
 この話を後輩から聞いたとき、まるで2ちゃんのできそこないのスレッドみたいだな、と僕は思った。こんなやつ、本当にいるんだな、と思った。
 けれど、今の僕は疑いを深くしている。ウソ話は、文章化するとよくわかる。流れ的に、ところどころ辻褄のあわないところが出てきて、そういう綻びを直そうとすると、はっきりと指摘はできないけれど不自然で気持ちの悪い感覚が文章に残る。正直、書いてて苦痛だった。

 本当に嘘なのかもしれない。彼は話がうまいから、ネットのどっかから拾ってきた話を捻って、いかにも自分の友だちのことのように話して聞かせただけなのかもしれない。真相はわからない。けど少なくとも、この話は嘘だ、「笹本くん」なんて本当は存在しないんだと考えたほうが、世界がもっと素敵なものに見えるのは確かだ。


 彼は「笹本くん」の話を終えたあと、「笹本はだめなやつなんですよ」と言った。
 僕はそれにとっさに答えることができなかった。
 明らかに「笹本」はだめなやつだった。でも、程度の差こそあれ同じく「だめなやつ」である僕には、そう直接言うのはためらわれた。それで結局、「まあ、俺も人のことは言えないけどさ」なんて答えた。
 バイト先で知り合った学校の後輩は、僕の言葉を聞いてちょっと笑ってから、「でも」と言った。
「でも、田代さんはちゃんと大学にいるじゃないですか」
 笹本くんは高校卒業後、専門学校に入りはしたものの、1年と経たずに中退。「これは本当に俺のやりたいものじゃなかった」と親を説得し、別の専門学校へ入学。けれどこれもすぐに中退してしまう。

 笹本くんは解体屋に就職した。2ヶ月、3ヶ月と経つにつれ、「最近、仕事が楽しい」と元気を見せていた。けれど、4ヶ月目から給料の支払いが滞りがちになり、笹本くんが就職してから6ヶ月目、会社はいつの間にか倒産し、経営者は行方不明の状態になってしまった。


 それからずっと、笹本くんはアルバイトで一応は働いているのだという。
 高校時代の仲間と一緒に彼の家へ借金を取り立てに行くと、「勘弁してくれよ、今月の給料、俺2万円しかもらってないんだ」と言って頑としてお金を返そうとしない。彼と遊びに行くと、バイパスを走る車の中で唐突に「俺、じつはロリコンなんだ」と告白を始めることもあるらしい。
 高2になった笹本くんは、××高に行っている親友と一緒にコンビニでバイトを始めることにした。
 職場での笹本くんはあまり仕事がうまく出来なかったけれど、持ち前のガッツと太った外見のせいか愛嬌のあるキャラだと捉えられていて、周囲の目はそれほど冷たくはなかったのだという。

 ある日、親友と同じシフトに入って仕事をしていると、ひとりの女の子が来店した。その子は中学生ぐらいに見えた。彼女は店内をしばらくウロウロしたあと、商品の補充をしていた親友に話しかけた。
「あの、○○中の~~さんですよね。お姉ちゃんがメールしたいって言ってました」
 その女の子は、笹本くんが好きな子の妹だったのだという。


 その後ほどなくして、親友と彼女はつきあい始めた。笹本くんはその報告を待たずにバイトをやめ、親友とも疎遠になっていた。
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