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男性
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1985/01/15
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 バイトをやめる選択肢を選ばなかった僕は、「前向きに」「ストイックに」考えた。「彼に嫌われている」ということが苦痛なのならば、「彼に嫌われている」状態を無くせばいいのだ。「個人的に」嫌われていることについてはもうどうにもならない。でも、「仕事の能力的に」嫌われている状態ならば、僕のがんばりしだいでどうにでもなることのように思えた。少なくとも、文句の出ないような仕事をすれば、彼のあの痛烈な皮肉に満ちた叱責を受けなくて済む。

 それから僕は彼に嫌われないことを目標に仕事に取り組んだ。彼に文句をつけさせないことだけを目指して仕事に励んだ。僕は僕なりにがんばった。自分で「がんばった」なんて言うやつなんか気持ち悪くて、どうあってもお近づきになりたくない人種だと自分でも思うけれど、でも僕はがんばった。

 不思議なことに、一度そう目標を立ててやってみると、彼から叱責を受けても以前よりは落ち込まなくなった。まだまだ発展途上だと思ってモチベーションを意識的に高めることができたし、ときには彼のほうが間違ってるんじゃないか、と冷静に判断できるようにもなった。
 僕がまれに彼に話しかけ、もっとまれに彼が僕に話しかけるとき、彼は絶対に僕と眼をあわせなかったが、他の人と話すときは、当たり前だけれど普通に眼を見て、笑った。そんな場面を目撃して、以前はやたらとショックを受けていたのが、それほどでもなくなった。「最近こいつがんばってるみたいだし、あのころはちょっと言いすぎたかな」そう思ってて気まずいのかな、とか「なんかやたらと俺のことを意識してるなあ。ひょっとしてこいつ、ゲイか?」なんて思ってるのかな、とかそんな愉快な想像をできるようになっていた。

 いつの間にか仕事が楽しくなっていた。少し前まであれだけいやだと思っていたはずの仕事も、できるようになってみれば、自分のがんばりしだいでいくらでも班のみんなを楽にできるし、それが簡単にやりがいに繋がることも発見した。


 最後には、自分で言うのもなんだけど、それなりのプロになっていたと思う。集配所を間違えて荷物を発送する、いわゆる「誤仕分け」もほとんど無くなっていたし、荷物の処理のスピードも人並みになっていた。でも、いくら仕事が上手くなったところで、僕はいい「バイト」とはとうてい言えない。無断欠勤が多かったのだ。平均して、月に2箇所くらい、タイムカードに空欄ができていた。

 だから、最終日に彼がいつもと全然違う態度で僕に接したからといって、それがイコール「僕のことを認めた」ということにはなりそうもない。でも、少なくとも今年、僕に大きな影響を与えた人物を3人選べと言われたら、僕は間違いなく彼の名前を挙げる。
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