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 メガネを買うため(だけ)に長岡まで行ってきた。

 信越線の車内でかわぐちかいじ『ジパング』を読む。
 最近、ブックオフで買っては毎日1冊ずつ読んでる。
 が、東三条あたりでもう読み終えてしまう。
 長岡に着いたら禁を破ってもう1冊帰り用に買うことにする。

 長岡駅前は相変わらず、地方都市の中の地方都市というか、なにか厭世的な雰囲気がする。
 新潟へ帰る最終電車を寝過ごして逃し、やむなく駅前のベンチで夜を明かしたときからもう4年も経つ。けど、なんとも言えないこの寂しく突き放された感じは何も変わっていない気がした。

 半ば予想していたことではあるけれど、グーグルプレイスで調べると、駅近くにはブックオフは存在していなかった。地図上の離れたところに赤い目印が立っている。かなり歩くことが予想されたが、どうせ予定も無い、道中おいしそうな食べ物屋に遭遇するのを期待しながら駅を背にした。

フォト
 長岡大手高校の前を通ると、グラウンドにたくさんの生徒の姿が。どうやら体育祭の予行演習をやっているようだった。外履きに履き替えて、よく滑る性質の悪い土(というか砂)の上を走りまわった日のことを思い出す。
 風が吹くと表層の砂が舞い上がり、白い体操着を汚して短パンから伸びたむき出しの脚を黄色くまぶす。太陽は容赦なく照りつけ、吹き出した汗があごを伝い地面にいくつも落ちてはすぐ蒸発していく。めんどくさくて袖で汗を拭ったりするから、白いはずだった体操着はすぐに色あせた。それでも、たくさん我慢したあとに水筒に直接口をつけて飲む麦茶のなんとおいしかったことか。
 ぼーっと眺めてたら、数人の女子学生がこちらを見ていたので、少し考えてなんとなく手を振ってみる。同じくぼーっとしながら手を振り返してきたのはそのうちの数人。とっさにこういう反応できる人とそうでない人の違いはどういうことなのだろう。このところあまり働かなくなった頭でわずかにそう考えるが、視界の隅で体育教師もじっとこちらを見ていることに気づき、足早にグラウンド脇を通り過ぎた。

フォト
 僕があやうく変質者になりかけた一方で、道は急速に田舎の様相を呈してきた。山がすぐ近くにはっきりと見える。こんなの、大学の調査実習地ぐらいでしか見たことない。
 仮にも新潟3大都市のうちのひとつ。それでも20分歩いただけでこうなる。新潟なんて田舎だと思っていたけれど、そうなるとここはどういう位置づけで把握すればいいのか。柳田国男の「都鄙連続論」とか米山俊直の「小盆地宇宙論」とかが頭をかすめる。意外とはっきり覚えてて我ながら腹が立つ。

フォト
 いよいよ調査地じみてきた。つい、話の聞けそうな大きくて古そうな家を物色してしまう。臆することなく敷地に足を踏み入れて、「ごめんくださーい!」と家内に呼びかけなければならない、という義務感が芽生えてくる。職業病、ならぬ学問病とでもいうのか。その延長線上で、道端のゴミステーションに町の組み振りと当番表らしきものが貼られているのに気づくが、当然無視。

フォト
 住宅街の真ん中でよさそうな食事処を見つけた。地場産の肉とか書いてあるのでむしょうに気になる。しかし、どうやら食事を出すところではなく、食材を売るところのようだ。
 中では近所のご婦人らしき2人が談笑している。きっとノートと鉛筆を持っていたら僕は突入していた。そして食材を買って、頼めばその場で調理してくれそうな雰囲気も漂ってる。見知らぬ家で見知らぬ人と仲良くなる芸当だ。
 けれどやめておく。そんなの地井武男か池田哲夫にでも任せておけばいい。少なくとも20代の人間がなすべき行動じゃあない。

フォト
 グーグルマップで見かけて気になっていた東北中学。教育機関マニアの僕は記念に1枚撮る。
 東北大学は宮城県仙台市。東北高校も宮城県仙台市。日本大学東北高校は福島県郡山市。東北中学は新潟県長岡市?しかしあとで調べてみたら長野市と白河市にも同じ名前の中学があるらしい。単に市の中の方角を表しているだけなんだろうか。もっとも、新潟県立南高校が全然南に無いのと同様、方角由来説も蓋然性は低い。

フォト
 結局、長岡駅から1時間ほど歩いた長岡バイパス沿いにあった。
 ここで、あるあるネタ。
 自分が探している本に限って無い。
 1巻から右に視線を移していって、16、と来たあとに18になっている。目の錯覚かと思ってもう一度見てみるも結果は同じ。しかも16巻の右側に少し隙間が空いていて、18巻が斜めに寄りかかっている。
 これと同じ現象はレンタルビデオ店でも起こる。そういうときはたいてい返却予定日は1週間後だ。自分と同じ時期にはまって、自分と同じようなことを考え、自分と同じ行動を若干少しだけ早く取った何者かの存在を感じる。
 駅の本屋で新品を買うしかない。
 徒労、そして出費だ。

 
 帰りは小さな川沿いの道を通っていった。通学路になっているようで、自転車を漕ぐ高校生に次々と追い越される。一人で漕ぐ人、数人集団で漕ぐ人、男女ペアで漕ぐ人。男女ペアの後ろ姿でも撮ってやろうかと思ったけれど、一瞬躊躇してるあいだにあっという間に撮影圏外へ離脱していった。しかし、あれはいい光景だったなあ。

 しだいに脚が張ってきた。空腹も限界に近づいている。行きと帰りを含め、5軒ぐらい良さそうな店を見ていたが、中途半端な時間だったからいずれも準備中の看板が降りていた。
 こんなことだったら、最初から朝早く起きて自転車で来ていたらよかったと思う。ギコギコ言わせた整備不良のママチャリが軽快に走っているのが恨めしい。


 行きとほぼ同じ時間をかけて長岡駅に帰りついた頃にはもう17時を回っていた。仕事や学校帰りの人々でさきほどより賑わっている。
 まず当初の目的であるメガネを買いに行った。視力を計ってもらってフレームを選び、出来上がりを待つ時間で食事と買物を済ます。ちなみに、食事は駅ビルの変哲の無いラーメン屋で取った。とくに感想は無い。

 同じ駅ビルの本屋で『ジパング』を探す。漫画本のコーナーで気になる案内表示を発見。一時期ブームだったようだが、また再燃してるんだろうか?

フォト
 したたかというかなんというか。
 したたかと言えば、まだ性懲りも無く『謎解きはディナーのあとで』が平積みされている。今回で第8回を数える本屋大賞だけれど、今回ばかりは選考基準がわからない。


 メガネ屋に行くと担当がかわいい女の子に代わっていた。彼女からメガネを受け取り、若干世間話(というかメガネ話)をする。「新しいメガネかけていきますか?」と訊かれたので「はい」と答え、セルフレームの青いメガネをかけた僕は長岡に背を向けて、信越線に乗り込んだ。
 
 新潟に帰ってから改めて鏡を見てびっくりした。
 The strange of the stranger.
 誰だおまえ!?
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