幼稚園のとき、僕らゆり組はお遊戯会で「桃太郎」を演じることになった。配役を決めるとき、一人の園児が駄々をこね始めた。その結果、なんと主人公の桃太郎は2人いることになった。きっと義務教育界で言うところの職員会議が開かれたりしたんだろう。
桃に扮した先生が、しゃがんだままよちよちと歩いていく。その後ろを、2人の桃太郎が同じ格好でついて行く。親ガモについていく子ガモみたいな感じだ。2人とも原色むき出しの作り物めいた衣装を着ていて、頭にはハチマキ、腰には刀を差している。刀は抜き放ってみればなかなかの重量感があった。そのことに少し感動しながらも、僕はシラけた気分を抱えていた。桃太郎が2人なんて変じゃないか、と思っていた。
そう、桃太郎の1人が僕だった。
僕の記憶ではこうだ。
椅子を丸く並べて車座になった教室の中、いきなり騒ぎ出したやつがいた。小湊ナオトという名前だった。彼が何て言ったのか正確には覚えていない。ただ、桃太郎が2人になったという事実と彼が騒ぎ出したことは、僕の記憶の中で強く関連づけられている。
しかし、実際に考えると2つの疑問点がある。
1.田代雅樹
今の僕と20年前の僕は完全なる他人だから、4歳の僕が教室の中心的人物だった可能性も無くは無い。が、信じがたい。それよりも、発達障害の嫌いのある僕をあえて主役に抜擢させる、という教育業界的な吐き気のする配慮が図られたとするほうがよっぽど信憑性がある。もっと言えば、親が、僕の親が、幼稚園に働きかけてそうさせた、ということも考えられなくはないんだけど、さすがにその想像は親に対して失礼すぎる。
2.小湊ナオト
小湊くんをひと言で言うと、小学校のスターだった。その当時の僕の感覚で、クラスの男の序列をあえてヒエラルキーのように解釈(じつに中二病的だが)すると、小湊くんはいちばんおいしいポジションにいたはずだった。
いちばん上にはクラスの元締めみたいなやつがいる。将来の不良、中学に入ったら煙草吸います、という感じ。僕が小学生のときはちょうどJリーグが開幕してから数年経った頃で、彼も例に漏れずサッカーをしていた。「結婚するなら○○くんがいいよ、サッカー選手になっていっぱいお金もらうから」という会話がクラスの女子のあいだで発生したのを見たことがある。ちなみに今から思えば田代まさしに顔が似ていた。
その下に彼の取り巻きがずらっと並ぶ。はっきり言って影が薄い。3~4人いたような気がするが覚えていない。
そして、小湊くんを序列づけるとするならさらにその下あたりだろう。取り巻きよりも下、というわけだけど、じつはこのへんのポジショニングがいちばんおいしい。
小中男子の価値なんて、足が速い、クラスを牛耳ってる、勉強が出来るといったところで、要は「どれほど目立てるか」というところにしかなく、それは「どれほどモテるか」というのとぴったりと比例する。さっきいった女子のあいだでの会話はそれを表してると言ってもいい。でも、そういう子はたいてい「高校入ったらメッシュ入れます」という感じの子だ。もっと賢明な、天然で頭のいい子は、むしろトップから数段落としたところにいる男の子を選ぶ。つまり、小湊くんのいるところだ。ここにいるのは大声出したり態度がでかかったり威張ってたりしてる連中よりも目立たないというだけで、内容を見ればそういう連中よりもはるかに上をいってる。たとえば、小湊くんは地域のサッカークラブに入っていて、僕の見た限り、学年で10~20番目くらいにサッカーがうまかった。クラスでは確実にトップだった。それにイケメンだった。なんだかよくわからないほどさわやかだった。だから、件の女子の会話を聞いて、僕は「ばかだな~」と思ったのだった。でも、やっぱりそれを聞いて同じく「ばかだな~」と思う女の子もいるはずで、きっとその女の子は素敵な女の子なんだろうな、と思う次第だ。
自分に都合のいいように記憶を作り替える、というのをよくドラマやなんかで耳にするけど、実際に自分が体験するとなると複雑だ。果たして、僕は本当に記憶を作り替えて、駄々をこねたわがままな自分を小湊くんに投影したのだろうか。それとも、僕の記憶は事実とおりのもので、僕が桃太郎に選ばれて、小湊くんの若気の至りが炸裂しただけなのか。
真相はわからない。
PR